「大好きな作家さんを訪ねて」第3回 シェア・アトリエ ひがしやま荘

「ひがしやま荘」は、町家を使ったシェア・アトリエ。2つのアトリエと3つのものづくりショップが入居しており、この界隈で話題のスポットです。今回私たちは、仕掛け人である建築家の奥村さんと、入居する2つのショップの方に取材させていただきました。

昭和のレトロ感が素敵…♪ずいぶん年季の入った町家ですよね。いつ建てられたものなんですか?

奥村さん(建築家)以下奥村 昭和13年。ですから、築75年ぐらいですね。元は若林建具店さんという建具屋さんです。日本家屋の戸や障子、ふすまといった建具を作る作業場として使われていました。そこのご主人が身体を悪くされて廃業することになり、ご近所で親しくしていた私のところへご相談いただいたんです。

どうしてシェア・アトリエになったんですか?

大きな作業場ですので、若い人の活動の場として使ってもらえれば、というのが若林さんの希望でした。ただ改修資金にも限りがありましたので、なるべく元のままの状態で使っていただける工芸の作家さんや美大の学生さんに貸してはどうかとお勧めしました。ちょうど金沢美大の先生から学生やOBのアトリエを探しているというご相談を受けていたんです。双方のニーズがマッチする形で、町家アトリエが実現する運びとなりました。


改装はどのように行ったのですか?建具の道具もかなり残っていたようですが。

建具の道具は東北の石巻へ移っています。震災で流された建具屋さんの話を若林さんが伺って、そこへ必要な道具は一式お譲りしたんです。あとの家具の処分や掃除は「おくりいえプロジェクト」を利用しました。

「おくりいえプロジェクト」ってなんですか?

建築家仲間の山田のりこさんが旗振り役になって、金沢の町家を中心に進めているボランティア活動です。城下町金沢には町家がいまも多く残っていますが、その一方で年間約270棟の町家が取り壊され、姿を消しています。そんな町家の最期をみんなで見送るイベントが「おくりいえ」。ボランティアが集まって家の中をきれいに掃除するんです。その後、残された家具で気に入ったものがあれば持ち帰れるというご褒美付き。最近ではこのひがしやま荘のように、新しい住まい手が見つかるケースも増えてきたんですよ。

どんな作家さんやショップが入居しているんですか?

奥村 こちらが1階の奥に入居している活版印刷「ユートピアノ」の松永紗耶加さん。

松永さん(ユートピアノ)以下松永 はじめまして。

奥村 こちらが離れの2階に入居している「HACO;ya」の松原さんと橋川さんです。

松原さん・橋川さん(HACO;ya)以下松原・橋川 どうも。よろしくお願いします。

奥村 あと今日は留守ですが、1階の入り口に店を構えているのがセレクトショップ「AKASHU」のマイケル・ケリーさん。金沢美大を卒業した陶芸家さんで、自分の作品も含め若手作家の工芸品やレトロなアンティーク雑貨などを集めています。2階は油絵作家の久保ひかるさんと冨田真人さんがアトリエとして使って、創作活動に励んでいます。

活版印刷って、もっとベテランの方がしているものだと思ってました。

松永 富山にある古い印刷会社さんから道具を譲りうけたんです。作品制作がきっかけでそこのご主人と知り合ったんですが、高齢でやむなく会社をたたむことになったんですね。聞けば、活字はぜんぶ溶かして金属業者に鉛として売られるという話で、すごくもったいないと思い、それなら私に譲ってください!と申し出たんです。それからご主人に活版印刷の技術を習いながら、作業場を探していたところ、奥村さんからここをご紹介いただきました。昭和の雰囲気が活字を置くのにぴったりだったので、迷わず即決。いまは主に名刺のご注文を多くいただいています。100枚7,000円~です。

プリンターで印刷した名刺もいいですが、手作りで相談しながら時間をかけて作ることで想い入れが生まれると思うんです。この名刺を渡すのがうれしくて仕事をがんばろうって思ってもらえるようなものを作りたいです。

HACO;yaさんの箱も、とっても面白くて好きです。「飛び箱」とか「はこまんさん」とか(笑)。こんなに楽しいお店が金沢にあるなんて知りませんでした。

松原 ありがとうございます。じつは私たちの母体は株式会社マツバラといって、お菓子などの商品をパッケージする箱を製造している会社です。「HACO;yaプロジェクト」はふだん商品を守る脇役の「箱」を主役に据えて考えることで、ものづくりの新しい可能性を探る試み。箱の価値をいかに高められるかの実験でもあります。と、いうのがタテマエなんですが、ホンネは楽しいからやってるというのが正直なところです(笑)。見て、ププッと笑ってもらったり、話のネタにしてもらえたら嬉しいです。それが箱のイメージアップや、当社のブランディングにつながればと思っています。

橋川 最新作の「はこまんさん」は、立方体の箱なんですが、上のフタを開けて、45度ひねって下の箱に載せると、2等身の人形のようになります。顔はハンコで押せるんですが、いろんなハンコがあるのでオリジナルの表情が作れます。ね、可愛いでしょ。昨年の金沢アートディレクターズクラブ賞というクリエイティブの祭典で、複合部門の部門賞に選ばれました。お店では商品を手にとって見てもらえるので、ぜひお友達を誘って遊びに来てください。

シェア・アトリエにして良かったことはなんですか?

松永 仕事が暇なときもみんながいるので寂しくないところかな(笑)。違う分野の人同士で刺激しあえる距離が良いですね。フロアが分かれているようで、分かれてないので。

奥村 ふつうシェア・ハウスというのは独立型で、ある程度部屋を仕切って設計するタイプが多いんです。ここは仕切りがないことで逆にコミュニケーションが取りやすいというメリットが生まれたんだと思います。

松原 お互いがそばにいることで助かっていることは多いですね。活版印刷の松永さんのお客さんがうちの店に寄ってくれたり。東山なので海外の観光客の方もいらっしゃるんですが、そんな時はマイケルが大活躍。この前はうちの箱を1個売ってくれました(笑)

「ひがしやま荘」という名前自体がアットホームな感じですよね。

奥村 入居者がそろったときに、みんなで相談して考えたんです。ロゴマークはHACO;yaのデザイナーの橋川さんが作ってくれました。

橋川 5つのショップとアトリエがシェアしているから、五角形のかたちで、中のグリーンに塗ってある部分は地名の東山にちなんで東を向いています。外の陶器製の看板はマイケルが焼いてくれました。

みんなでコラボして作品をつくることはあるんですか?

奥村 実際にお店でコラボ商品を販売しているんですよ。詰め合わせのギフトボックスで、箱のデザインはHACO;yaさん、印刷はユートピアノさんの活版印刷。中には松永さんのお母さんが作った自家製ジャムとマイケルさんが焼いた陶器のスプーンが入っています。ユニークな箱の形なので、プレゼント用にオススメですよ。

ひがしやま荘のお祭りみたいなイベントも考えています。たとえば週末3日間は上のアトリエも含め公開して、オープンデーみたいな感じで。HACO;yaさんはワークショップをしたり、画家の久保さんは個展をやりたいと言ってるし、マイケルさんは制作風景を見てもらったり。東山の新しいコミュニティスポットになればと思っています。

ぜひ開催してください。遊びに来ます。

これからも楽しい商品や企画がリリースされるのを楽しみにしています。

今日はお付き合いいただき、本当にありがとうございました。(2013年11月取材)


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